芸は身を助ける

　「芸は身を助ける」

　父が、私によく言って聞かせてくれた言葉です。

　得意なことがあれば、いつか必ず、自分自身のためになる。と言いたかったのだと思います。

　その頃の自分は、小さいころから習っていたピアノを辞めたくて仕方なかった時期でした。今思えば、辞めなくてよかったと、しみじみと思います。

　何のとりえもない、面白みのない自分が、唯一自信が持てるもの「音楽」に出会い、ずいぶんと助けられた気がするのです。

　そんなかっこいいことを言っていた父ですが、中学3年生になった私が、「音楽の道に進みたいから、松山の高校に行きたい。」と言ったときには、驚くことに、大反対だったのです。

「芸は身を助ける。そう言ったじゃないか!」と、強く父に言いたかったけれど、もちろん怖くて言えるはずがありません。

　しかし、その当時の音楽の先生や担任の先生たちが、そんな私の強い思いを応援してくれ、そのおかげで、しぶしぶ行かせてくれることになったのです。

　そんな、やや矛盾した父でしたが・・・。

　父がよく言ってくれた言葉「芸は身を助ける」は、私の大切な言葉です。