はまみ音楽教室おたより

愛南町の音楽教室「はまみ音楽教室」のブログです♪

リトミック教育とは

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《第1回 ちいさな音楽会 より》      《2021 生徒募集チラシより》

         

   「リトミック教育とは』 ~ディプロマB指導資格認定試験小論文より~

 32年間小中学校の音楽教師をしていた私は、早期退職したのち、小さな音楽教室を開きました。教員をしていたころの私は、能力差が大きい音楽の授業において、いかに生徒たちに、音楽に関心・意欲をもってもらえるかを模索しながら教壇に立っていました。そのような中つねに感じていたことは、基礎・基本の大切さです。基礎・基本を身に付けているからこそ、音楽を心から楽しむことができると、さまざまな場面で実感していたからです。しかし、少なくなっていく授業時数の中で、基礎・基本の習得は簡単なことではなく、様々な葛藤があったことを覚えています。そこで感じたことは、幼児教育の大切さでした。長年合唱部や吹奏楽部の顧問をしてきた私は、幼児期から音楽の習い事に通っていた生徒たちの技術習得の速さから、それを痛感したからです。

 退職し、音楽教室を開く準備をしていく中で、リトミック教育の良さについて娘から聞き、指導者養成コースの研修会に参加しました。最初は資格を取ってみようという軽い気持ちでしたが、受講を重ねていくにつれ、リトミック教育の奥深さを感じられるようになり、私が求めていたものはこれだったんだと気づくことができました。そして迷うことなく、音楽教室リトミックコースを開設することにしました。

 リトミックとは、エミール・ジャック=ダルクローズ博士によって創案された音楽教育法です。児童心理学・大脳生理学などをベースとしており、音楽の基礎能力を高めるだけでなく「総合的な人間教育」と言えます。ダルクローズは、『リトミックは音楽を基盤とするものであるが、単に音楽学習の準備であるにとどまらず、むしろそれ以上に一般教養の一体系である』と言っています。音楽という手法を中心とし、子どもたちの脳や身体の発達にあった活動を通じて、「身体的、感覚的、知的にもこれから受けるだろう、あらゆる教育を十分に吸収して、それらを足掛かりに大きく育つための基礎作りをする教育」であると言えます。

 私は、リトミックを教えるようになって約4年になります。最近感じることは、自己評価の低い子どもが多いということです。「これはできないかも」と思ったら、いろいろな言い訳をしてしなかったり、「無理」「絶対できない」と言って、やる前からあきらめたりする傾向があります。ほとんどの子どもたちは、母親から褒められたいという気持ちが強く、うまくできないとがっかりされそう。だからしない。成功した時だけ褒められるため失敗しそうなことは避けているのかもしれません。

 ダルクローズは、1925年の論文の中で、『教育の目的は、学習の終わりに子どもたちが「私は知っている」と言うのではなく、「私は経験した」と言えるようにすることである。そして自己表現のあこがれを持たせることである。強い情動を体験するとき、我々はそれをせいいっぱい他人に伝えたい欲求を感じるからである。生命力を持てば持つほど他人に与えることができるようになる。受けることと与えること、それは人類全体の偉大な法則である。』と述べています。「私は知っている」と「私は経験した」の違いとは、知識として覚えたことと実体験したこととの違いです。子どもだけでなく人は、感動したことはすぐ誰かに伝えたくなります。それは、自己表現の第一歩だそうです。感動体験は自己の表現を促します。それがまた刺激になりフィードバックされていき、精神活動を活発にして知性を目覚めさせていくということです。美しい花を見て、「きれいだね~、いい香りだね!」と母親が表現する姿を見て、まねをして実体験していくうちに、本当に美しいと思えるようになるということです。

 幼いころから「できる」ことを要求されて育ってきた今の子どもたちは、「私は経験した」と言えることが少ないのだと思います。だからこそ、できないと思うことから避け、できそうなことだけをするのです。だからこそ、ダルクローズのリトミックが今必要なのだと思います。

「音楽は空気のごとく」のように、今では様々な音楽が身近なものとなり、聴きたいと思う曲はYouTube等ですぐ聴くことができ、以前のようにレコードやCDを買う時代ではなくなってきています。とても便利でありがたい時代ですが、手に入る音楽を感動なく聞き流すことに慣れてきていると感じます。「リトミックなあに」の著者岩崎光弘氏によると、感動を伴って音楽に接することは、体にとてもよいそうです。音楽を身体で感じる作業の中で人間の脳は直接刺激され、またその感動による心の揺れは、心の成長に大きな役割をもっているそうです。

   最近、他者とのコミュニケーションをうまくとれなかったり、感情をうまくコントロールすることができなかったり、また、集中力を持続させることが極端に困難であったりする子どもたちが増えてきていると感じます。そういった子どもたちにこそ、幼児期における音楽の感動体験が必要となってくるのではないでしょうか。

 指揮者の岡本仁先生がおっしゃっていた言葉に、『音楽は「はっ!」として「ほっ」とするもの』があります。先生はレッスン時間中、生徒とお母さんを「はっ」とさせ、レッスンが終わったら皆を「ほっ」とさせるそうです。私も、1時間のリトミックレッスンの中で、自分自身のすべてを最高点まで高め、「はっ」とさせることができる指導者でありたいと思います。そして、「知らせる」のではなく、「経験させる」リトミック教育を目指していきたいと思います。

 

【参考文献】

リトミックってなあに」 

岩崎光弘 著

ドレミ楽譜出版社

 

リトミック・芸術と教育」

ダルクローズ 著   

板野 平 訳 

全音楽譜出版社